宮部みゆき版本所七不思議「本所深川ふしぎ草紙」各話のあらすじ紹介
怖くない怪談本所七不思議を宮部みゆきがアレンジしたのが、「本所深川ふしぎ草紙」です。
こちらも怖くはないですが、佳作ぞろいでとてもいいです。
宮部みゆき版本所七不思議のあらすじをネタバレなしで紹介します。
本家本所七不思議についてはこちらに
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宮部みゆき「本所深川ふしぎ草紙」
「本所深川ふしぎ草紙」は、宮部みゆき氏の著書で本所に伝わる不思議なお話をアレンジしたアンソロジーです。
短編集ですが、共通する登場人物として回向院裏の十手持ち、茂七親分がいることからも想像がつく通り、怪談というよりミステリーに近い作品集です。
本所七不思議には、7つ以上の話があり(私が探し当てたので10個ありました)、宮部作品化されたのは、そのうちの七つ。
片葉の葦、送り提灯、置いてけ堀、落ち葉なしの椎、馬鹿囃子、足洗い屋敷、消えずの行灯です。
片葉の芦
参考元ネタ=ストーカー殺人の被害者の遺体の捨てられた場所に生える葦は葉が片方しかない
宮部みゆき版「片葉の葦」
本所駒止橋近くの寿司屋、近江屋の主人藤兵衛が殺されました。
「回向院裏に住む十手持ちの茂七は、娘のお美津が殺したと睨んでいる」
そんな噂が広まっています。
蕎麦職人の彦次は「そんなはずはない」と心の中で叫びます。
「お嬢さんが人殺しなどするわけがない」
そう信じる彦次が藤兵衛の葬儀へ出かけてみると、十七、八の痩せ肉の娘が物陰で手を合わせて泣いています。
娘は、彦次と目が合うとどこかへ駆けて行ってしまいました。
その夜、蕎麦屋の主人源助に「藤兵衛をやったのはお美津さんじゃあねえと、ずいぶん気を揉んでいるようだが、わけでもあるのかい」と聞かれ、彦次は子供時分のことを話します。
ひどく貧しく、何日もものを食べずにいた彦次に、お美津は握り飯をくれたのでした。
でも、それを知った父親の藤兵衛は、お美津を強く叱り、彦次には「飯をもらいに来るのは犬だ。犬に成り下がるつもりか」と言って、お美津のところへ来るのを禁じたのです。
話を聞いた源助は、これからも藤兵衛に線香を上げに行くといい。彦次が行けばいい供養になると言います。
なぜ自分が焼香すると藤兵衛が喜ぶのか、彦次には意味が分かりません。
送り提灯
参考元ネタ=夜、割下水あたりを歩くと提灯の明かりがつかず離れずついてくる。
宮部みゆき版「送り提灯」
おりんは、毎晩丑三つ時に奉公先の邸を抜け出し、回向院へ向かいます。
お嬢さんにそう言い付けられたから。
お嬢さんは、回向院の小石を百晩続けて拾うと恋が叶うと信じているのです。
暗い夜道を行くおりんの後ろに提灯の明かりが浮かんでいます。
おりんが歩くとついて来て、おりんが立ち止まると止まるその灯りは、送り提灯に違いありません。
屋敷へ帰ると手代の清助が、起きて火鉢を焚いています。
「後ろからついてくるのは狸だ。どこかへ連れて行かれちまうよ」と話す清助は、「代わりに俺が回向院へ行ってやる」「おりんちゃんでなければだめなら一緒について行ってやる」と言いだします。
清助がお嬢さんに岡惚れしているのを知っているおりんは、恋が成就するのを嫌がっているのだろうと思いました。
ある夜、おりんが戻った屋敷は大変な騒ぎに…
置いてけ堀
参考元ネタ=お堀の釣り人が帰ろうとしたとき水の中から「置いてけ」と聞こえたら、釣った魚はきれいさっぱり消えている
宮部みゆき版「置いてけ堀」
両国橋東詰めの麦飯屋は、岸崖小僧の噂でもちきりです。
錦糸堀に出る化け物で、釣り人に「置いてけ」と言って出て来るので、持っている中で一番大きな魚をやらないといけない。
それが岸崖小僧です。
岸崖小僧は、小さい体に大きな頭を持ち、光る眼に長い牙、手足には水かきと爪…この世のモノとも思えない姿なのだとか。
男たちは笑っていますが、誰かが「岸崖小僧は、浮かばれない猟師や魚屋が化けたものらしい」と言うと、気まずい静けさが店を覆います。麦飯屋の料理運びおしずの亭主は棒振りの魚屋でしたが、誰かに殺され、まだ下手人が捕まっていないからです。
ある早朝おしずは、家の前に残る足跡を見つけました。
水かきのついた足跡は、家の戸口の前を行ったり来たりしたように見えます。
次の日も、また次の日も…。
「うちの人が岸崖小僧になって毎晩会いに来ている」
そう思ったおしずは、夜更けの錦糸堀へ行ってみることにします。
よどんだ水の底からしわがれた声が「置いてけ」と言うのが聞こえてきました。
おしずが「おまえさん?」と尋ねると、絞り出すような「あさましい」という声に続いて、何かが水に飛び込むような音が。
おしずの話を聞いた長屋のおとよは、「それなら成仏させてやらなくては」と言っています。
※置いてけ堀はオーディオブックにもなっています。
落ち葉なしの椎
参考元ネタ=平戸新田藩松浦家の上屋敷の椎の木は、葉を落とさない。
宮部みゆき版「落ち葉なしの椎」
本所石原町の雑穀問屋小原屋の裏手で人が殺されました。
道は落ち葉で覆われ、逃げた下手人の足跡は残っていません。
それを聞いた小原屋の行儀見習いお袖は、「あの木がいけない。落ち葉は一枚でも残しておいてはいけない」と言い、毎日丑三つ時まで箒で道を掃くようになりました。
岡っ引きの茂吉が話を聞きに行くと、お袖は、自分の父親も落ち葉の頃に殺されたのだと打ち明けます。
「おとっあんの時も落ち葉のせいで、下手人はあがらずじまいだった」と涙ながらに話すお袖は、「だから落ち葉を掃かなくてはならない」と言い張っています。
帰ろうとする茂吉を跡取りの千太郎が追いかけてきて言います。「このところ、見慣れない男が落ち葉を掃くお袖を物陰から見ていることがある」
ある日、美しい女がお袖の履き掃除を手伝いにやって来て…
馬鹿囃子
参考元ネタ=囃子の音が聞こえるけれども本所割下水あたりで消えてしまう。
割下水は当時の排水路です。詳細はこちらに
宮部みゆき版「馬鹿囃子」
筒井筒の宗吉からおしろいの匂いがした!
幼馴染の宗吉と夫婦になる約束をしているけれど、果たして宗吉は本当に私のことを好きなのか…。
思い悩むおとしは、お吉が堅川のほとりに立っているのを目にします。
人を殺したという妄想にとりつかれていると噂のお吉は、「男なんてみんな馬鹿囃子じゃないか」
誰に言うともなくそう言いました。
馬鹿囃子とは本所に伝わる怪談です。
そのお囃子は、どこからともなく聞こえてくるのに耳を澄ますと聞こえなくなってしまうのだとか。
お吉はなぜそんなことを言うのでしょう。
でも宗吉の心が分からず思い煩うおとしには、その言葉が狂女の無意味な独り言とは思えません。
その時背後で衣擦れの音がして、何者かが近づいてきます。
足洗い屋敷
参考元ネタ=本所の旗本屋敷では毎夜天井から足が出てきて「洗え」と言う
宮部みゆき版「足洗い屋敷」
亀戸天神近くの大野屋の若い後添えのお静は、悪夢にうなされることがしばしば。
お静が子供の時分に板橋の旅籠で客の足を洗う仕事をしていたと聞いた義理の娘おみよは、本所の足洗い屋敷の話をします。
「そのお屋敷では夜中に天井から足が出て来て『洗え洗え』と言うんですって。きれいに洗ってやるといいことがあるそうよ」
「おっかさんは子供の頃にたくさん足を洗ったから福がついたの。だから夢に足が出てきたら、これから幸せが来る印だと思えばいいのよ」
おみよは、血の繋がっていないお静を大好きなのです。
そんな大野屋をのぞき込む若い女がいます。
この間もそこに立っていました。
女は、おみよが一人でいる時にだけ現れ、お静と二人で庭を見ている時には姿を見せません。
そんなある夜、おみよの父が胸苦しさを訴えます。
消えずの行灯
参考元ネタ=本所割下水あたりに行灯の消えたことのない蕎麦屋台がある
(灯りのついていたことのない蕎麦屋台があるというヴァージョンもあり)
宮部みゆき版「消えずの行灯」
昼の忙しい桜屋で、客に料理を運ぶおゆうをじっと見る中年男小平次。
ある日手土産を持って桜屋の旦那を訪ねてきます。
小平次の話は意外なものでした。
回向院近くの市毛屋という足袋屋の娘お鈴は、五歳の時に永代橋の落下に巻き込まれたきり遺体も上がっていません。両親は今も娘がどこかで生きていると信じ、懸賞金をかけて探しているのだそう…
それがどうしたと訝しむおゆうに小平次は、お鈴が生きていればちょうど今のおゆうくらいの歳で、おゆうはその子に良く似ているのだと話します。
娘を見つけたと申し出れば軽く百両は手に入ると言う男の誘いを、おゆうは「馬鹿げたこと」とはねつけますが、桜屋の夫婦は、まんざらでもなく…
…と、こんな感じです。
どれも超自然的な「何か」の物語ではなく、ちゃんと理由があって起きている怪奇現象で、その怪異の裏には、人の様々な感情が潜んでいます。