宮部みゆき版本所七不思議「置いてけ堀」のあらすじと小説とドラマ
全然怖くない「本所七不思議」
宮部みゆき氏が短編小説に仕立てています。
小説も怖くはありませんが、人を描いた深みのある物語になっています。
Contents
置いてけ堀
「置いてけ堀」と呼ばれていたのは、今の江戸東京博物館のちょっと北、日大一高あたりにあった幕府の資材置き場を囲うお堀です。
他に錦糸堀という説もあるようです。(宮部版では錦糸堀)
物語は、どうということはありません。
お堀で釣りをしたとき「置いてけ」と聞こえたら、釣れたはずの魚がきれいさっぱり消えている。
お堀に住む「何か」が、魚を「置いていけ」と言うのだ
というお話です。
「置いてけ堀」と本所七不思議詳細はこちらに
このどうしようもない怪談を人情味あふれる捕り物劇にアレンジしたのが宮部みゆきの「置いてけ堀」で、ドラマ化もされています。
ドラマ版「置いてけ堀」のあらすじを紹介します。
宮部みゆき原作ドラマ版「置いてけ堀」のあらすじ
「茂吉の事件簿ふしぎ草紙」という時代劇シリーズは、宮部みゆきの時代小説「本所深川ふしぎ草紙」「かまいたち」「幻色江戸ごよみ」「初ものがたり」「堪忍箱」からエピソードをセレクトしています。
本所七不思議からは、「置いてけ堀」だけでなく、「送り提灯」「足洗い屋敷」「落ち葉なしの椎」「消えずの行灯」「片葉の芦」の6つが制作されました。
茂吉役は高橋英樹。
両国橋の東にある回向院の裏に住んでいる岡っ引きです。
以下はドラマ版のあらすじです。
首をくくるおしず
深川冬木町の長屋。
年若いおしずが首をくくろうとしているのを見つけたおとよは、慌ててそれを止め、しっかりしろと強い口調で言います。
騒ぎを聞きつけて起きてきた長屋の連中におとよは、回向院の親分を呼んで来てくれと頼みました。
回向院の裏の本所相生町に暮らす岡っ引きの茂吉は、近隣の人々に回向院の親分と呼ばれています。
おしずの亭主の庄太は殺され、下手人はまだ捕まっていないのです。
駆け付けた茂吉はおしずに「下手人は必ず捕まえる」と約束しますが、おしずは「下手人などどうでもいい。あの世でうちの人に会いたい」と言って聞きません。
おしずはまだ赤子の角太郎を抱えながら生きる気力を失っていて、この前も大川端で川をじっと眺めていたとか…。
庄太はなぜ殺されたのか
茂吉の調べは難航しています。
おしずの亭主庄太は、魚を売る棒手振で、殺されるような理由がありません。
仕方なく庄太の出入り先をあたると、川越屋の女将お光と常磐津の師匠富士春がもめていたことが分かります。
川越屋の主人吉兵衛が常磐津に入れ込むのを浮気と疑うお光が、富士春の家へねじ込んだと言うのです。
庄太は、どちらの家にも魚を売って歩いていたので、何か関係があるのかも知れません。
茂吉は富士春に事情を聞きますが、答える富士春はひどい声です。
喉がつぶれてしわがれ声しか出せないのでした。
富士春は、「お光が水に毒を入れたに違いない」と言います。
お光が富士春に言い負かされて帰って何日かしてから、魚を売りに来た庄太が、「今お光さんが出て行きましたね」と言ったことがありました。
富士春はお光が来ていたことも知らなかったので「変だな」と思ったのだそうです。
そしてその日から喉に異変が起き、お光がこっそり庭へ入って水がめに毒を入れたのだと、富士春はそう考えています。
毒を盛ったお光が、庄太にそれを見られたと思って口封じに殺したのでしょうか。
でも証拠がありません。
置いてけ堀の噂
「錦糸堀には何かいる」
このところ本所深川界隈ではそんな噂が流れています。
お堀の近くに行くと「置いてけ…置いてけ」と不気味な声が聞こえてくる。
見れば足元には水かきと鋭い爪を備えた無数の足跡が。
でも足跡をたどると途中で途切れてしまう。
「それは岸涯小僧だろう」と誰かが言っています。
岸涯小僧とは、死んでも浮かばれない猟師や魚屋がこの世に化けて出たもので、小さい体に大きな頭を持ち、光る眼に長い牙、手足には水かきと爪…この世のモノとも思えない姿なのだとか。
強がって茶化す男たちの横でおしずもその噂を聞いています。
おしず、庄太と再会
翌朝。
おしずは、家の前で水かきのついた足跡を見つけます。
庄太が岸涯小僧になって毎晩家に来ていたと確信するおしずは、深夜、岸涯小僧の棲み処と評判のお堀へ出かけました。
水の中から「置いてけ…置いてけ…」と聞こえてきます。
おしずは、死んだ亭主に必死に呼びかけますが、声は「あさましい…」と言ったきり消えてしまいました。
庄太は、今のあさましい姿をおしずに見せられないのでしょう。
川越屋を不吉が襲う?
一方川越屋には怪しい虚無僧が現れ、「庄太は怨念で岸涯小僧になった」「鎮めないと恐ろしいことが起こる」と予言するので、吉兵衛とお光は震えあがります。
庄太殺しの真相
おしずからお堀の話を聞いた長屋のおとよは、翌晩、おしずについてお堀へ向かいました。
岸涯小僧が現れるより先に、草むらの向こうから提灯の明かりが近づいてきます。
ふたりが隠れて様子を伺っていると、やって来たのは川越屋の吉兵衛とお光でした。
川越屋夫婦は、お堀に向かって語りかけます。
「あんたを殺したのは私じゃないよ、この人が…」「ばか言え。庄太を殺しちまったほうがいいと言ったのはお前じゃねえか」
しばらく罪を擦り付け合っていた二人は、ひときわ大きい水音を聞くと提灯を取り落として逃げて行きました。
あまりのことにおしずとおとよは、顔を見合わせます。
川越屋の夫婦が為八という男に金を握らせて庄太を殺したのでした。
茂吉の前に引っ立てられた夫婦はしらを切りますが、お堀に落ちていた提灯には「川越屋」の名が。
庄太殺しの一件はこれにて落着です。
置いてけ堀の声
それから何日かたち、おしずが茂吉の家を訪ねてきました。
おしずが礼を言っているその時、家の前を通る男が茂吉に声を掛けます。
「両国橋の芝居小屋のおやじが、そろそろ河童のの足型を返してくれと言っているよ」
岸涯小僧は、茂吉と下っ引きが川越屋夫婦に口を割らせるために仕掛けた罠でした。
それを聞いてもおしずは落胆する風もありません。
「みなさんにご心配をかけて…」
そう言って詫びるおしずは、すっかり自分を取り戻したようです。
真相の分かった置いてけ堀を怖がる者はもうなく、お堀からは今夜も「置いてけ…置いてけ…」と聞こえてくることを誰も知りません。
終
…と、こういうお話です。
あの下らない元ネタをここまで昇華させる宮部みゆきってすごいですね。本当にすごい。
ドラマ版「置いてけ堀」を見るには
「置いてけ堀」は「茂吉の事件簿ふしぎ草紙」というオムニバス形式のドラマの1話です。
NHKの時代劇ですが、今のところNHKオンデマンドにありません。
時代劇専門チャンネルではたびたび放送されています。これからも何度も放送されるでしょう。
時代劇専門チャンネルはスカパー!がおすすめです。
宮部みゆきの小説「置いてけ堀」を読むには
文庫本で読む
「置いてけ堀」は「本所深川ふしぎ草紙」という短編集に収載されています。
「置いてけ堀」のほかに「片葉の芦」「送り提灯」「落葉なしの椎」「馬鹿囃子」「足洗い屋敷」「消えずの行灯」の宮部版が読めます。
オーディブルで聴く
置いてけ堀はAmazonでオーディオブック化されています。
オーディオブックは、朗読をちょっとだけエンタメテイストにしたものです。
朗読しながらセリフの箇所はセリフらしく読み上げられ、ところどころにBGMも入ります。
オーディブル会員になれば聴くことができます。
オーディオブック意外にいいですよ。